

ADAS開発の生産性と品質を上げるには、「人」を増やす前に「環境」と「ツールチェーン」をきちんと設計することが重要になります。
この記事では、完成車メーカーやティア1の開発/委託担当者が、「どこまでを社内で構え、どこからを外部やオフショアに任せるか」を整理しやすいように、ADAS開発環境構築の考え方をまとめます。
ADAS開発に必要なツール群
ADAS開発では、単発のツール導入ではなく「要求→実装→テスト→リリース」までを一気通貫でつなぐツールチェーン設計がカギになります。
代表的には以下のレイヤーで整理できます。
要求管理・タスク管理DOORS系、Jira系などで機能要求・安全要求・テスト要求を一元管理し、RACIと紐付けて変更履歴まで追える状態を作ることが重要になります。
構成管理・リポジトリGit系プラットフォーム(GitHub Enterprise、GitLab、Bitbucket など)でブランチ戦略とレビュー・権限を統一し、ECU別・車種別・派生開発をスケールさせやすくします。
CI/CD・ビルド・デプロイJenkins、GitHub Actions、GitLab CI/CD、Azure DevOps などを使い、ビルド〜ユニットテスト〜静的解析〜パッケージングまで自動化し、車載向け特有の署名・バリアント対応もパイプラインに組み込みます。
テスト自動化・シミュレーション連携HIL/SIL/MIL環境やクラウド上のシミュレーション基盤と連動し、パイプラインからシナリオベースのテストを自動実行・ログ収集できる構成にすることで、ADAS特有の膨大なパターン試験に対応しやすくなります。
オンプレ/クラウド混在の構成例
自動車業界では、機密度の高い車載ソフトや車両データを扱うため、完全クラウドよりもオンプレとクラウドを組み合わせたハイブリッド構成が主流になりつつあります。典型的な分け方は次のようなイメージです。
オンプレ側に置くもの車載ECU向けビルド環境、署名サーバ、実車接続のHILベンチ、機密度の高いソースコードや暗号鍵などは、社内ネットワーク内で完結させるケースが一般的です。
クラウド側に置くもの大規模シミュレーション、ログ解析、学習用データ処理、CIの一部ジョブ、ダッシュボード類はクラウド上に置くことでスケールとコスト最適化を図りやすくなります。
ハイブリッド運用のポイントVPNや専用回線でオンプレとクラウドをつなぎ、「どのデータをどこまで出すか」をポリシー化すること、開発環境を車種横断で共通化しつつ、必要に応じてクラウドリソースへジョブを“逃がせる”設計にしておくことが重要です。
日本側ネットワークポリシーとオフショア接続
日本の自動車メーカーやティア1では、サプライチェーン攻撃やR155対応も背景に、社外接続ポリシーが年々厳しくなっています。
その前提でインドなどのオフショア拠点をつなぐ際は、次の観点が欠かせません。
ゼロトラスト前提の接続設計単純なフルVPNではなく、IDベースのアクセス制御と最小権限、端末認証、操作ログの取得を前提にしたリモート接続方式が求められます。
「どの階層まで」見せるかの分離完全なソースコードではなく、「ブランチ限定」「特定フォルダ限定」「コンテナ化された開発環境経由」のアクセスにするなど、オフショア側が触れる範囲を明確に分けることで、社内セキュリティレビューを通しやすくなります。
データ取り扱いルールと監査個人情報・走行ログ・地図データなどの扱いに関するルール、ログ保存期間、持ち出し禁止範囲などを、契約と技術ルールの両面で定義しておくことが安定運用につながります。
iJbridgeが支援できる環境・ツール・テンプレート
iJbridgeでは、「日本側常駐リーダー+インド開発チーム」を前提に、ADAS開発環境とツールチェーンの立ち上げ・運用ルール設計をまとめて支援できます。
これは、単なるエンジニアのアサインではなく、「どのプロジェクトにも再利用できるテンプレート」をセットで提供するイメージです。
環境・ツールの標準パターンGitプラットフォーム+CI/CD+要求管理+テスト管理を組み合わせた標準構成案、ブランチ戦略、レビュー・権限設計、インド拠点との接続方式などをテンプレートとして準備し、貴社ポリシーに合わせてカスタマイズします。
オフショア前提の運用ルール・ドキュメント「どのタスクを日本側で実施し、どこからをオフショアへ流すか」「成果物をどのツール上でどうレビューするか」「障害・インシデント時のエスカレーション」といった運用プロセスを、実プロジェクトで使えるレベルの手順書として整備します。
エンジニア・チームの組み込み開発・テストエンジニアだけでなく、DevOps/CI担当や環境構築エンジニアを含めたチームを提供し、「人と環境のセット」で早期立ち上げできる点が特徴です。
パイロットから本番運用への移行
環境構築やオフショア活用は、一気に全車種・全機能へ広げるよりも、「パイロット→標準化→横展開」というステップで進めるほうが社内の合意も得やすく、リスクも抑えられます。
第1ステップ:小規模パイロット環境1機種の一部機能、あるいはテスト・ログ解析領域などに対象を絞り、専用リポジトリとCIパイプライン、限定的なオフショア接続で試行します。ここで、ネットワークポリシーや権限設計、運用フローのフィードバックを集めます。
第2ステップ:標準テンプレー ト化うまく回った構成・ルールをテンプレート化し、「次の機種・次の機能では、このテンプレートをベースに立ち上げる」という社内標準に昇華させます。これにより、新規プロジェクトごとの立ち上げコストを大幅に抑えられます。
第3ステップ:本番運用・スケール量産開発ラインに組み込み、複数機種・複数拠点から同じツールチェーンを利用できる状態に拡張します。ここで、監視・メトリクス・コスト管理をセットにし、長期的な運用を前提とした体制に切り替えます。
iJbridgeとしては、「まずは1つの機能・1つのプロジェクトでパイロット環境を一緒に作り、そこから貴社標準として横展開する」進め方をおすすめしています。
次の第7記事では、この環境の上で動かす「ADAS向けシミュレーション基盤とテストベ ンチ設計」をテーマに、どの範囲を外部・オフショアへ切り出すと効果的かを具体的に整理していきます。






