

導入
電気自動車(EV)の充電制御システムがますます複雑化する中、従来のC言語ベースの実装からMATLAB/Simulinkモデルへの移行は、保守性、検証、モデルベース開発(MBD)ワークフローとの統合を向上させるために不可欠です。しかし、この移行には、機能ロジックを正確に変換すると同時に、ISO 26262などの自動車業界標準への準拠を確保する必要があります。さらに、仕様書の自動生成は、手作業の負担を軽減し、一貫性を保ち、開発サイクル全体でのトレーサビリティを向上させる重要な役割を果たします。
本記事では、充電制御システム向けのCコードをMATLAB/Simulinkモデルに変換するための構造化アプローチと、仕様書の自動生成プロセスについて、技術的な視点から詳しく解説します。
充電制御システムの概要
EV充電制御システムは、充電ステーションと車両バッテリー間の電力フローを管理し、安全性、効率性、標準プロトコルの準拠を確保します。主な制御機能は以下の通りです。
状態遷移制御:充電開始、アクティブ充電、バランス調整、充電終了のシーケンスを管理
パワーエレクトロニクス制御:フィードバック制御を用いた電圧・電流・電力レベルの調整
充電ステーションとの通信:CCS(Combined Charging System)、CHAdeMO、GB/Tなどのプロトコルを実装し、充電パラメータを交渉
熱管理および故障管理:温度監視、 故障検出、緊急遮断機構の実装
バッテリー管理システム(BMS)との連携:SoC(State of Charge)、SoH(State of Health)の監視と適切なインターフェースの確保
C言語でのレガシー実装は、リアルタイム組み込みプラットフォーム向けに最適化されているため、MATLABへの移行には体系的なアプローチが求められます。
CコードからMATLABモデルへの変換プロセス
1. 静的および動的コード解析
まず、Cコードから機能要素を抽出するために静的コード解析を実施します。PolyspaceやClang静的解析ツールを活用し、以下を分析します。
制御フローの複雑性
データ依存関係
グローバル変数の使用
関数呼び出しの階層構造
ポインタの参照とメモリアクセス
また、動的解析として実行プロファイリングツールを使用し、以下を特定します。
割り込みハンドラなどの時間依存処理
計算ループ内のボトルネック
タスクスケジューリングの優先度
信号処理メカニズム
2. 機能分解とブロック表現
コード解析後、以下の方法でMATLABモデルを構築します。
Stateflowによる制御ロジックの表現:充電制御の状態(Idle、Pre-Charge、Charging、Post-Chargeなど)を状態遷移条件とともにモデル化
Simulink関数ブロックの活用:PIDベースの電流制御や電圧調整アルゴリズムをSimulinkサブシステムへ変換
ルックアップテーブル(LUT)実装:C言語の配列から温度依存の充電レートなどのマッピングデータをSimulinkのLUTブロックに移行
カスタムMATLAB関数:Cコードの数学変換やフィルタ処理をMATLAB Functionブロックで実装
3. 組み込みCパラメータをSimulinkデータオブジェクトへマッピング
Cコードで定義されたマクロや定数を、Simulink.Parameterオブジェクトとして定義し、適切なデータ型とチューニング可能な属性を割り当てます。
#define MAX_CHARGING_CURRENT 50.0 → Simulink.Parameter('MAX_CHARGING_CURRENT', 50.0) static const float overvoltage_threshold = 4.2; → Simulink.Parameter('overvoltage_threshold', 4.2)
4. 信号ルーティングとインターフェース定義
I/Oポート設定:SimulinkのInport/Outportを対応する信号名とバス構造にマッピング
信号ログ記録:Data Store MemoryブロックやData Logging機能を活用し、シミュレーション挙動を記録
外部ハードウェア統合:S-FunctionやSimulink Real-Timeブロックを活用し、組み込みシステムとの連携を確立
5. モデル検証(MIL: Model-in-the-Loopテスト)
バック・トゥ・バックテスト:MATLABスクリプトを使用して、CコードとSimulinkモデルの同一入力テストケースを実行し、機能同等性を確認
コーナーケースのシミュレーション:電圧変動、熱ストレス、電流サージなどの異常条件をシミュレーション
浮動小数点精度解析:MATLABのFixed-Point Designerを活用し、C言語の固定小数点実装との数値安定性を検証
仕様書の自動生成
1. MATLABモデルからのメタデータ抽出
Simulink APIを使用して、仕様書に必要な情報を自動取得します。
ブロック情報:Simulink.findBlocksを用いて、機能ブロックやパラメータ、接続情報を取得
信号フロ ー解析:Simulink.BlockDiagram.getGraphicalInfoを活用し、インターフェース図を自動生成
Stateflow遷移情報:sfroot APIを使用し、状態遷移条件やロジックフローを取得
2. 仕様書フォーマットの自動化
Simulink Report Generatorを活用し、以下を自動的にレポートにまとめます。
システムアーキテクチャ図:自動生成されたサブシステム間接続図
機能記述:ブロックの説明やコメントを抽出
検証テスト結果:MILテストの成功/失敗 指標をレポート
パラメータ一覧:チューニング可能なパラメータ、デフォルト値、制約情報
結論
C言語ベースの充電制御システムをMATLAB/Simulinkへ移行することで、検証精度、保守性、規格準拠が向上します。自動変換を導入することで、人的エラーを削減し、開発効率を大幅に向上させることが可能です。
さらに、仕様書の自動生成により、ドキュメントの一貫性と品質を確保し、コンプライアンス対応を効率化できます。
今後、AIを活用したモデル生成やHIL(Hardware-in-the-Loop)検証技術の発展により、より迅速かつ信頼性の高い開発が実現するでしょう。
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